時計を、伝統工芸ではなく「計算する電子機器」として見た。
1970年代前半、CASIOは電子電卓で培ったLSI技術を持っていました。デジタルクオーツ時計は、水晶振動子のパルスを数え、秒・分・時へ積み上げて表示する装置です。CASIOの企業史は、この構造を「秒を足し続ける計算」と捉えたことが腕時計参入の発想につながったと説明しています。
1974 / CASIOTRON初代Casiotronは月・日・曜日まで表示し、大の月・小の月を自動判別するオートカレンダーをデジタル腕時計として世界で初めて搭載。CASIOが最初から「時刻表示+生活上の手間を減らす機能」をセットで考えていたことが分かります。
この発想は、その後のCASIOをかなり正確に予告しています。1976年のCasiotron X-1はストップウオッチ、カウンター、ワールドタイム、デュアルタイムを加え、1978年のF-100は樹脂ケースで軽さと新しい造形を持ち込みました。伝統的な時計の文法を模倣するより、「電子回路なら何を腕に載せられるか」を優先したのです。
だから1980年代に電卓、辞書、電話帳が時計へ入っていくのも突然ではありません。Casiotronの時点ですでに、CASIOにとって腕時計は“時間だけを見るもの”ではなく、小さな電子機器のプラットフォームでした。
当時は高級電子機器だったCASIO公式によると初代Casiotron QW02-10の発売価格は58,000円。当時の大卒初任給平均78,700円と比較されるほどで、いまの「安価なデジタルCASIO」とはかなり違う出発点でした。